盲腸の静かな夕べ

文章を投稿します。

記事カテゴリー ▼

『水面と分身』のこと

新書サイズの短編集をつくりました。すでに校正もれなどを発見する日々です。

短編というか、ほとんどが掌編です。いつか作りたいと思っているともういつ作れなくなるかわからないし、習作集、というのが正しいと思いますが、思い切って出します。
もともとはホラーを志向していたのですが、ホラー未満の予感に満ちたものが多くなりました。不安に安心を覚える人々の元に届いたら嬉しいです。

もともとなぜ小説を書き始めたのか。
以前は批評(文芸でない)やある創作集団の記録文を書いたりしていましたが、人と関わる文章がどんどん奉仕のものになっていってしまい、自分の中でバランスがとれなくなっていきました。それから書かない時期が続き、その中でいくつか読んだ小説に衝撃を受けました。ことばとに載った小説とか、異常論文とか。初めのものすごい衝撃はテッドチャンだったかも。そしてそれを通して、今までなんとなーく読んでいた小説たちを、全然読めていなかったのかもしれない、みたいな転換が起きて(転換、と書きますがそこまで劇的なものでなく、もう本当ものを知らないな…という反省みたいなもんです)、わかりたい、という欲求がでてきました。
書くことをわかろうと小説を書き始めて、そうすると全然うまく行きません。それで、良いタイミングで開講された映画美学校の「ことばの学校」に通い始めました。講師陣にはいくつも知った名前が並んでいました。
そこで言葉を扱う方法の一端をつかんでは離しつかんでは離して、同級の話を聞き、知らないことばかりだと思いながら落ち込みはせず、毎日わくわくしていました。
真実を描くにはフィクションを通すしかない場合がある、というのをモットーに頑張っています。そして真実を書いたからといってそれが希望にも絶望にもなり得るのが言葉の組み合わせの力ですね。小説は難しく楽しい。

受講中に書いたものの一部を『水面と分身』には載せています。そのあたりも含め、収録した作品について少し説明をしたいと思います。

『記念碑』
ことばの学校の演習科の一番はじめに出された課題です。800字で掌編をひとつ。オチは必ずつけること(というような指示だったと思います)。人を登場させるために必要な手続きということを考えました。

『水面と分身』
文フリに合わせて書き下ろしました。もともと中編の予定でしたが、なかなかのボリュームになりそうで、一章を抜き書きしまとめました。舞台のモデルは暗渠界では有名な、桃園川暗渠です。Twitterで創作怪談を呟くことが多かったのですが、それにどうしても書けない部分をどう書くかということを考えてできたものです。

追記(2023/5/15):いつかの日記で、読み方は当初「みなもとすいめん」だったということを書いたのですが、まわりに「みなも」派が0人だったというのもあり、だんだん自分の中でも「すいめん」がしっくりしてきたので、最近は「すいめん」と読んでいます。

『兄の生活』
『軽作業』を書き終わったあとに、またブンゲイファイトクラブくらいの長さのもの書こうと思いましたが、少し長くなりました。

『軽作業』
ブンゲイファイトクラブ用に書きました。全員を殴り倒す気でないと提出してはいけない大会ですが、ほとんどおもちゃのナイフの気分でした。本戦出場後、多くの方に読んでいただけたようで、感想、というものに触れて、舞い上がりました。ジャッジ(評者)には細かいところまで記述していただき、こんなにバレてるのー!と、内蔵見せた心地です。ただ分かってもらおうと思ってるわけでもないので、フィーリングで読んでもらえたら嬉しいです。あとは、希望の物語という大筋には自分自身懐疑的で、同じくBFC出場者の中野真さんに「世界だ」というとてつもなく嬉しい感想をいただきましたが、中野さんの真意はわからずとも、私もこの作品を世界だ、というか、世界の捉え方だ、と思ってる一端があります。BFCのページで本文が読めます。

『盲腸で入院した際友人に世話を頼んだペットの名前について』
ことばの学校基礎科の最初の課題で、1000文字前後で「コロナ」という単語を2回使うこと、という条件が付されました。この文章は明確な下敷きを用意して取り組みました。いぬのせなか座の元メンバーの笠井康平さんが以前Twitterで、ある文章を、動詞は動詞に、名詞は名詞に、助詞は助詞に……など、品詞を保ったまま別の文章に差し替えたことがあると言っていて、カッケー!と思った私はいつかやりたいと考えていました。それをやろうとして、まあ、諦めました。無理です。そもそもその下敷きに選んだ文章がコロナにまつわる公的文書だったので、なかなか小説になりませんでした(途中で箇条書きとかもあった)。なので、タイトルやいくつかにその余韻はあるものの、構成を真似したような形に落ち着きました。
ちなみに盲腸は実体験です。意図したわけではないですが、名前がキーワードになっている作品が多くなりました。

追記(2023/5/15):下敷きを用意した理由についてですが、他者としての言葉と出会うことがことばの学校でしきりに言及されていたことによります。具体的に言われていたのは翻訳の重要性についてです。ただここでは別のやり方をとってみました。

『川底の街』
「星々」という140字小説企画が楽しくて少しづつ投稿していて、その繰り返しの中から生まれた短い小説です。これから何か作るにしても、裏表紙にこのボリュームのものを載せたいなと思います。


以上のようなものたちを載せました。文学フリマ東京35にて販売します。もしよろしければお手に取ってみてください。なんだかかわいいサイズです。

カテゴリー