盲腸の静かな夕べ

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文体の舵をとれない 1-2 文はうきうきと

 ル=グウィンの小説教室、『文体の舵をとれ』の課題、問2です。

練習問題① 文はうきうきと
問2:一段落くらいで、動きのあるできごとをひとつ、もしくは強烈な感情(喜び・恐れ・悲しみなど)を抱いている人物をひとり描写してみよう。文章のリズムや流れで、自分が書いているもののリアリティを演出して体現させてみること。


 あ、吐く、と思った。4つ打ちの音楽のドン、ドン、に合わせてからだを左右に振っていた人が、胸を抑えて縦に細かく痙攣する。音楽にはまるで合わなくなったからだの動きは徐々に大きくなり、やがてヘッドバンギングのような代物になる。それは再び音楽のビートに合った。その人は肩をキュッと上にあげ、両手のひらを顔面に当てている。吐かないのであれば、あれは泣いている。周囲の人たちが、そのヒートアップに若干引く。皆踊るのはやめないまま、徐々にその人との距離を開けた。その人は顔面から両手を離し、ひらけた空間にぶらりんぶらりんと手を遊ばせはじめる。その手の先が時々、周囲の人のからだをかすめる。顔面は上に向けられ、口が大きくあけられている。何かを叫んでいる。それと同時くらいに音楽の雰囲気が変わった。その人は、手はそのままに膝を大きく曲げ、短いスパンで何度も飛び跳ねた。圧がすごいと思ったら、それは徐々にこちらに近づいているからだった。飛び跳ねた彼がそのジャンプの勢いのまま体の向きを変え、ガウン!とソファにいる私の横に着座する。そのあとは静かで、寝たのかと思ったが目は開いていた。私の視線に気が付いた彼は、今日限定のカクテル飲みました? あれ私考案なんで、ぜひ飲んでください、と話しかけてきた。手の指すべてに指輪がはめてある。


取り組むまでのこと
 実例四『馬の心』のどこがいいのかを、2段落目に限ってもう少し考えてみた。身を前後に揺らす行為は、「膝に肘をついて」というささやかな補助によって鮮やかに目に見えてくるなと感じた。あと良いなと思ったのは、「言葉にならない何かで体が破裂しそうな気分で、いっそ泣けば具合が楽になるのかもと思った」という、これは気分の説明なのだけれど、からだを介した表現で、これからの動作を予期している。ここからアクションがおこりはじめる、といってもいいかもしれない。感覚的な説明は「それを続けていると〜」の一文だけで、あとはほぼ状況説明。さらっと読むと、感情描写と動作が入り乱れて書かれているような印象をうけたが、そんなことはなかった。〜、〜、〜、と句読点が続き、たたみかけられている印象になったからかもしれない。
 動作の予期から始めるというのは、とっかかりになるかもなと思い、そこから書き始めた。

取り組んだあと(反省)
 問1でやったことは特に生かせていなくて、ここにことばのひびきはあるのか……? と思ったまま書き終えてしまった。「ぶらりんぶらりん」などの繰り返しもそれが特に効果を発揮していなさそうなのが虚無。リズムのことを考えていたからかなんとなく音楽が流れているシチュエーションに流れていった感じがある。ただ、背後にビートを鳴らしておいて、そこに動作を乗せていくというのは書きやすい気がした。一定の速度で展開している、という保証にもなっている気がする。
 他の方の作品と比較して、私は文量が少ないのかもしれない。もう少し固有名詞とかいれてフックをつくっておいた方がよかったのかも。それかもっと、からだを前後にゆらすとか、単純な動作の方が書きたい、というか、そのくらい絞って書いた方が、感情の情報とかは入れられたのではないだろうか。単に描写の羅列になってはいないか。

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