『カムガール』の例のシーン
最近、『アンフレンデッド』(14)をなんとなくみて、オンラインもの(?)の映画をもう少し観てみたいという意欲が湧いた。そしてみたのがNetflixオリジナルホラーの『カムガール』(18)。「ローラ」という名でウェブカムモデルとして活動するアリスが主人公。上位を目指す欲望が度を超えた時、彼女のアカウントは自分そっくりの人間にのっとられる。その恐怖を中心に描きながら、彼女が自分自身と対峙するティーン成長物語といった側面を併せ持つ映画だ。
例のシーンというのは私が勝手に言っているだけなのだが、1時間2分〜の、アリスが自宅で「ベイビー」について調べる動作と、ローラとベイビーのコラボ配信が同時並行的に映される場面である。物語の転換の契機となる重要なシーンだ。少し詳細に追っていく。
「皆何を期待しているの?」ローラとベイビーのコラボ配信の音声が流れ出す。
廊下からアリスの部屋へと向かうショット。部屋には、うろうろしながらスマホで検索をするアリス。ノートPCがベッドの上に置かれており、そこからコラボ配信の映像と音声が流れている。再び部屋うろうろアリス→スマホ検索画面→ベッドの上の配信と短めに切り替わる。画面いっぱいにコラボ配信が映る。アリスのワンショット/ベッドの上の配信という対比から、アリスのワンショット/配信画面という対比に移り変わった。ベイビーが現実ではすでに死亡しているという事実をつきとめたアリスは、ようやく配信画面をみる。カメラごと撮影部屋を出て、廊下に行くローラたち。アリスは自分の背後のドアを振り返る。ローラたちはアリスの部屋へと近づいている。アリスはノートPCを食い入るようにみて、ローラたちが近づいてくるのを確認する。その背後にはこの部屋の出入り口であるドアが映る。ローラたちが廊下側からアリスの部屋のドアを映す。切り替わって、アリスの部屋の内側からドアが映る。その繰り返し。ローラたちがドアをあける音とともに、アリスは部屋のドアを叩き、「出てって!」と叫ぶ。ベッドの上におかれたノートPCに映るのは、ベッドに膝立ちしながら配信を続けるローラたち。実弟であるジョーダンの写真がローラによってカメラに映される。激怒し、ノートPCを叩き壊すアリス。怒りのおさまらないアリスと散らかった部屋の一部が映る。
このシーンでは、ローラはアリスのプライベートの領域に侵入してきている。のみならず、オンラインの世界からオフラインの世界へ、超えてはならない超えられないはずの境を超えてきた、という感覚を呼び起こす。
そもそも、アリスは私生活とカムガールとしての活動に一線を設ける主義の配信者であった。撮影部屋を設けることで、そのスタイルを徹底させもしていた。ピンク色にまみれた部屋を撮影場所として使い、ベッドを置いた寝室をプライベートなアリスの部屋として使用している(間にある廊下が、まだ誰のものでないようにダンボールにまみれているのは上手い設定だ)。
しかしもうひとりのローラの出現により、その体制は崩れる。ローラの撮影場所はオンライン上にのみ存在しはじめた。もうひとりのローラとともに、もうひとつの空間が生まれたのである。
コラボ配信中のローラがその「オンライン上の」撮影場所から廊下へ出た時に、一瞬画面が荒れる。「何か重い処理が行われた」と観ている私は直感する。そのあとはローラサイドとアリスサイドの--つまりオンラインとオフラインのモンタージュによって、ローラたちが「ここに向かってきている」状況がつくられる。彼女たちはオフライン上では存在しないのに、映像の編集技術を通して確実にアリスの部屋へと侵入してきた。だからこそ「出てって!」と叫びたくなる。